遡ること15年ほど前、僕は美容師になった。
右も左も分からないまま、
福岡という土地に降り立った。
(美容学校は福岡県の柳川にあります)
卒業式の次の日からシャンプーレッスンが始まった。
始まったと同時に、
美容学校で培って来たモノが、
社会ではほぼ通用しないことがわかった。
友達もいない、
(同級生はほぼ県外就職)
誰も知らない、
場所も分からない。
家に帰れば1人。
精神状態がおかしかった。
同期が4人いて、僕以外3人は同じ学校だった。
同期3人はすぐにシャンプーのテスト合格した。
僕が合格したのは一番最後だった。
プレッシャーでシャンプーするのも汗だくだ。
先輩方の視線、
受かれよってプレッシャー。
教えて頂いたことを、
ちゃんとする。
これでいいのかな?
じゃなくて、
これがいい!
って感じでテストを受けた。
何を考えながらシャンプーした?
お客様が気持ち良くなるように。
そう答えた。
合格を頂いた。
師匠は笑顔で答えてくれた。
”テストって自分の為じゃなく、
人様の為にある、
仕事ってお金を頂くから。”
僕は自分が受かる為には?ってやっていたけど、
人様のためにって全然考えた事が無かった。
師匠は常に人の為を考えていた。
テストが受かった時、
泣いたのを今でも憶えてる。
毎日遅くまでお付き合い頂いた先輩方には、
今でも頭が上がらない。
師匠はその時たぶん25歳。
野間は20歳。
よく良く考えれば、
そんなに歳も離れてないのに、
物凄いオーラがあった。
カッコイイ!!
それだけでした。
やっと社会人にもお店にも少しずつ慣れてきた頃、
僕はもう一つの店舗に異動になる。
師匠の背中が見れない日々。
自分が何をしたかったのか、
何になりたかったのか分からなかった。
わからないけど、お店にいかなきゃ。
お店に行っても役に立たないし、
何になりたいかよく分からないし、
何をしたいか分からない。
大好きな美容が、いつの間にか、
大嫌いな美容になっていた。
辞めたい。
辞めよう。
僕は、お店に行かず、
嘘をついた。
めっっっちゃ先輩方から電話がかかってきた。
出なかった。
師匠からの電話だけ出た。
一先ず店に来い。
店に行き、
怒られるの覚悟だった。
裏に呼ばれ、
殴られるのも覚悟した。
師匠が口にした言葉は、
たった一言。



どうしたん?
それだけでした。
号泣したのと同時に、
この方は器がデカイ。
みんなに迷惑かけたから、
謝ってこい。
後でまた話す。忙しいから。
辞めるってなってからも、
いつもの様に可愛がって下さって、
いつもの様に怒って下さって、
いつもの笑顔を下さる。
一生付いていくなんて、
嘘の塊だ。
ここからが僕の罪悪感の塊だ。
辞める日の朝、
師匠は一言。
がんばれよ。
それだけ言って、
お客様の待つフロアへと、
凛とした背中で足速に去って行きました。